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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(し)55号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、末尾添附の書面記載のとおりであるが、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

元来、刑の執行猶予の言渡はその言渡を受けた被告人がこれを取消されることなく無事に猶予期間を経過したときは、刑の言渡はその効力を失うものとして、被告人の改過遷善を助長すると共に、その反面、被告人が猶予期間内更に罪を犯したような場合には、いつでもその執行猶予の言渡を取消し、実刑を執行すべき警告をもって、被告人にその行動の反省と謹慎を要請する趣旨のものである。然るに、記録によれば抗告人は先きに昭和二四年一月二五日京都地方裁判所において、詐欺罪により懲役一年三年間執行猶予の判決を受けながらその確定後猶予期間内たる昭和二四年九月六日頃更に横領罪を犯しこれにより昭和二四年一二月八日京都地方裁判所において懲役四月に処せられ、その判決は確定したのであるから、刑法二六条一項一号により、前の執行猶予の言渡を取消されるのは当然である。即ち抗告人は、先きの詐欺罪の判決の際刑の執行猶予期間内に更に罪を犯さないことを条件として執行猶予の言渡を受けたに拘らず、その条件に反して更に罪を犯したために、右判決本来の効力として執行猶予の言渡を取消されたわけであって、それは抗告人において予期しながら、みずから求めたものでかかる取消の裁判によって、前の詐欺罪の確定判決に判示された犯行につき再び審理裁判したのでもなく又右の確定判決の効力を動かすわけのものでもない。そしてこのように、前犯に対する確定判決を動かしたり或は前犯に対し、重ねて刑罰を科する趣旨のものでもない刑法第二六条一項一号の規定が憲法三九条その他の規定に違反しないことは、当裁判所昭和二四年(れ)第一二六〇号、同年一二月二一日大法廷判決、昭和二四年(れ)第一四〇四号、同二五年三月一五日大法廷判決の趣旨に徴し疑をいれないところである。従ってこの点に関する論旨は理由がない。

なお原決定は、その標題に「判決」と記していることは所論のとおりであるが、それは「決定」の誤記であること判文の内容に徴し極めて明白であるから、この点の非難も当らない。

よって刑訴四三四条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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